どうも、ポンチ熊(@ponchiwork)です。
読書記録のサルベージです。他にも読書はしているのですが、中には思想的に紹介しづらい物もあったりします。
今回は有名な『銃・病原菌・鉄』のジャレド・ダイアモンドが編纂・著作に携わった『歴史は実験できるのか~自然実験が解き明かす人類史』を読みました。
こちらの日本語版の発売は2018年ですが、原著は2010年のNatural Experiments of Historyです。日本語版の本文は250Pくらいなんで読み始めればすぐに読めます。
邦訳があるというのは本当にありがたいことです。科学の用語を日本語に訳してきた先人たちの功績に感謝ですね。
本書は各分野の歴史家・人類史家・社会史家(ジャレド・ダイアモンドを含む)により、歴史における比較研究法を解説したものです。
実験室での実験ができない歴史・社会科学において、比較研究法と統計分析に基づき、下記7章のケーススタディの『自然実験』を検証しています。
詳細は本文に譲りますが、下記7つのチャプターでは、前半はナラティブな比較研究を、後半ではより広範囲の自然実験に対する統計解析を紹介しています。
1.ポリネシアの島々を文化実験する
『銃・病原菌・鉄』でも取り上げられていたポリネシアン・トライアングルの諸島について、物理的環境が異なる代表的な島を3つ取り出し、それらの社会政治的・経済的な変化の結果について考察しています。
2.アメリカ西部はなぜ移民が増えたのか
アメリカ西海岸をはじめ、19世紀に白人圏の移民が急激に増加した7つのフロンティア社会について『ブーム→バスト→移出救済』のサイクルに着目して比較研究を行っています。
3.銀行制度はいかにして成立したか
アメリカ大陸のアメリカ合衆国・ブラジル・メキシコの3カ国の初期銀行制度を比較し、政治制度・官僚制度と国民の参政権・民主化の程度により銀行による信用供与がどのように行われてきたかを考察しています。
4.ひとつの島はなぜ豊かな国と貧しい国にわかれたか
前半ではイスパニョーラ島を舞台に、中進国として繁栄を続けるドミニカ共和国と最貧国のひとつであるハイチの差について論じています。
後半では再びポリネシアを舞台とし、環境条件の違いからイースター島の環境破壊(これについてはジャレド・ダイアモンドの『文明崩壊』により詳細に考察されています)について論じています。
5.奴隷貿易はアフリカにどのような影響を与えたか
8世紀~19世紀のアフリカの奴隷貿易をテーマに、奴隷の移出と現在の所得水準の相関について考察しています。
奴隷貿易が現在の民族多様性にまで尾を引いているというのも興味深い視点でした。
6.イギリスのインド統治はなにを残したか
東インド会社に始まるイギリスのインド統治の際、地主制度を中心とした徴税システムを採用した地域と直接徴税を行った地域で、現在の公共財の発展水準に差が見られていることを考察しています。
7.フランス革命の拡大と自然実験
フランス革命後のナポレオン侵攻をテーマに、侵攻を受けたドイツを舞台に、アンシャンレジーム・封建制・ギルド統治の崩壊の程度と、その後の所得水準を都市化のレベルをアウトカムとして論じています。
テーマとしては面白そうなのですが、地名に馴染みが無いため、日本人の目線ではピンとこないかもしれません。
個人的に面白かったのは4章のハイチ/ドミニカ共和国の差と、5章の奴隷貿易が現代に与えている影響についての考察でしたね。ジャレド・ダイアモンドが手掛けているのは第4章だけですが、彼の著作が好きな人であれば総じて面白く読めると思います。
テーマとなっている地域は世界の各地にわたりますが、本書は複数の歴史テーマを単に記述しただけでなく、『自然実験と検証』という枠組みを提供している良書でした。
ではまた。応援よろしくお願いします♪